さよなら、いつかわかること


さよなら。いつかわかること [DVD]

さよなら。いつかわかること [DVD]

監督・脚本:ジェームズ・C・ストラウス
出演:ジョン・キューザック、シェラン・オキーフグレイシー・ベドナルジク、アレッサンドロ・ニヴォラ

スタンレーとグレイスは夫婦で軍人。ところがスタンレーは近視になってしまい、退役へと追い込まれる。グレイスがイラクへ派兵される中、スタンレーはホームセンターで働きながら12歳の長女ハイディと8歳の次女ドーンとともにグレイスの帰りを待つ日々を送る。しかしスタンレーは母親を恋しがる幼い娘たちと上手に向き合えず、家の中はどこか翳った状態。そしてある日突然届くグレイスの訃報。現実と向き合えないスタンレーは幼い娘たちに真実を打ち明けることもできず、ただ逃げるように小旅行へ旅立つのだった。




ストーリーや展開は実に単純明快だけれど、そこで描かれる問題は実に重く難解。
イラク戦争で大切な人を失った遺族の哀しみと戦争の意義との間に挟まれて葛藤する姿は、実にリアルで身近な問題。現代の日本を生きる私にはその真実の悲劇は想像しかできないけれど、アメリカにもイラクにもスタンレーやハイディやドーンはたくさんいるのだろう。
一見すると反戦を下敷きにした映画に見えるかもしれない。けれど実は散りばめられたたくさんの想いとテーマひとつひとつを丁寧にすくいあげてみせてくれる、繊細さと優しさに溢れた映画なのである。
事実や問題を責める哀しみより、受け止められないものに向き合って折り合いをつけていく姿を丁寧に描ききった先にあるのは、「愛おしい」とか「慈しい」とかそういう温かい想い。
特に、絶望の底にいて幼い娘の前でも頑なな父親でしかいられなかったスタンリーと、12歳にして聡く戦争の意味や父親の異変に敏感な反応を示すハイディが小旅行を通して互いの心の隙間を埋めていく姿は心が震えてならない。
現実逃避のような旅行だった筈が娘たちと四六時中ともに過ごすことでいつしか家族への愛と妻の死を自覚し、翳りを取り払おうと奮起して立ち上がっていく姿を演じたジョン・キューザックの演技は素晴らしかった。